二人組は一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに余裕のある様子に戻り、二人して可笑しげに笑う。
「は?何だよ、見てたのかガキ。でもお前に何ができるって言うんだ?」「そうだ、ガキはもう家に帰る時間だぜー?」
こいつら、俺をガキ扱いしやがって・・・!
しかしここで俺が冷静さを欠いたら、事がうまく運ばない。
「盗んだものを元の場所に返せ。どういう事情か知らないが、万引きは万引きだ」
「フン、生意気なクソガキが・・・上等そうな服着やがって、どこのモンだ」
「東天伎武術学校だ」
「は!?嘘だろ東武とか。てめえみてーな見るからに弱っちい奴が入れる所じゃねーだろ」
「うるせえ、学生証なら持ってる」
「マジかよ・・・・・・あ?『治療班』って書いてあるなここ。オレ聞いたことあるぜー、治療班は大したことないって」
「・・・っ!」
治療班の悪口を言われて、俺はたまらず頭に血が上りそうになる。
油断して、男の一人に襟首をつかまれた。
「てめえら東武生はいいよなー!国の支給受けてっから寝る場所も食う物もあんだろ?・・・なんだよその目は。オレ達貧民のことを内心で嘲笑ってんのかぁ!?」
「ぐっ・・・、そんな事思ってねえよ、自意識過剰だろ」
こいつらやばい。マトモに話が通じない。
冷静に努めていた俺の態度が、よけい火に油を注いだらしい。
「ンのガキが!肉かっ裂いて臓物引きずり出して売ってやろうか?それとも・・・顔はまあまあだし物好きジジイにでも売り飛ばそうかぁ?」
「名案だな、案外高値で売れるかもだぜ。・・・でもその前に味見させろよ。てめえの生意気な目見てると、泣かせたくなるんだよなぁ・・・」
下卑た笑い声が頭上で響く。
首に指が食い込んで痛い。息が十分に吸えないから苦しい。
俺はこんな奴ら相手にどうすることもできないのか?
『治療班は弱い』。今の俺は、その言葉通りじゃないか。情けない。
なあ、こんな時、『アイツ』だったらどうする――――?
ふいに、一陣の風が吹く。
「君たちさー、人の彼女にナンパしないでくれる?」
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目を開けた時、そこに立っていたのは。
「ひ、菱川・・・!?なんでお前っ?」
「お姫様がピンチの時、王子様が助けに来るのは当たり前だろう?」
ふざけてんのかコイツは。でも、助けに来てくれたっていうのは本当らしい。
「ちょっと下がってて、曾良君」
にこやかに言われ、俺は大人しく後方に退いた。
「菱川?どっかで聞いた名だな・・・まあいい。俺らにケンカ売るってんなら、誰だろうとぶちのめすまでだ」
二人組が刀を抜き、臨戦態勢になる。
それを見た菱川は呆れたように
「話しても通じなさそうだね。君たちには・・・少し痛い目見てもらわなきゃかなあ?」
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菱川が扇子を振り上げた瞬間、竜巻が起こった。
風の渦の中に、さっきの二人組が吸い込まれていき、成す術もなくから回る。
悲痛な叫び声と風の音が聞こえる。
そして、菱川の顔からいつもの笑みが消え、手首をクイと捻ると
二人の体が地面にたたき落とされた。
恐怖と痛みにおかされながら二人は声を発する。
「おい、今・・・なに・・・が・・・」
「お、思い出した・・・金の目と、髪・・・風使い、『風神』」だっ・・・」
痛みで地面をのたうちまわる二人に、『風神』と呼ばれる男はゆっくりと近づいた。
「ねえ・・・反省した?」
二人そろって震えながら答える。
「あ、ああ、した、反省したから・・・っ!」
「ああ、だ、だから、っ焼かないで、くださ・・・」
「君たち相手に火なんか使わないよ。だって・・・文民の曾良君の前で人を焼いたら、僕が嫌われてしまうかもしれないからね」
**
菱川と二人組が何を話しているか、俺には判らなかったが、決着がついて俺のほうに戻ってきた菱川は、いつもの笑顔だった。
二人組は店主のおやじに万引きしようとしたものを返し、帰って行った。
俺たちは礼を言われ、買おうと思っていた品をタダで手に入れることができた。
**
店を出た二人は、学校に帰るべく夜空の下を歩いていた。
「よかったね、曾良君。買う物買えて」
呼びかけたが、曾良の返事はない。
「おーい、どうしたの?」
「はっ!な、何でもない。面倒事に巻き込んで悪かったな!」
「気にしなくていい。それより、曾良君・・・つらそうな顔してるけど」
「・・・・・・俺さ、自分が情けない。あんなチンピラみたいなのもやっつけられないくらい弱いし」
「曾良君は治療班だから仕方ないよ」
「ち、治療班を弱いみたいに言うなっ!確かに…他の奴らより弱いかもしれないけど、俺らがいなかったら困るだろ!?」
「そうだね、ごめんごめん。…でも君は、もう僕を倒さなくていいなら、強さに固執する必要はないだろう?」
「…それは」
曾良が言いにくそうに口ごもる。
「ん?」
「菱川が、側にいると…自分が、みじめに見えてくるんだ。お前は東じゃ三本指に入るほどなのに、俺なんか、」
「あー、曾良君は、自分と僕とを比べようとしているね?」
「…」
「僕と君は年も違うし、比べる必要もないし、君が劣等感を抱く必要もない。くだらないことだよ」
「そんな言い方…!」
「曾良君は弱いことを嘆いているけど、世の中には逆の人間だっているのさ」
「は?」
「僕は生まれつき、風を扱う能力があった。そのチカラと金髪金眼が気味悪がられてね…いつも独りだったよ。
どうしてこんなチカラがあるのか、疑問に思って、そして憎んだ。チカラや強さを嘆く人間もいるんだ。だから、君は君のままでいいんだよ」
「お前…そんなことがあったんだな」
「おっと!可哀相なんて思わないでほしい。この能力に今は感謝してるくらいだ」
「?」
「こうやって、」
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