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兄さんは俺を忘れたのか?
それはないだろ。
兄さん、アンタは嘘をつけない。
俺は知ってる。
嘘をつくときに泣きそうなほど辛い顔になる。それをごまかそうと眉根を寄せて怒ったような顔を作る癖。
自分では気付いてないんだろうな。
なんで俺を忘れたフリをするのか、俺にはわからない。
そしてとどめを刺す言葉。
「判ったら、これからは二度とそのような名前で呼ぶな。私は三年の滝山だ」
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それにも関らず、俺は「兄さん」って呼んだ。そうしたら返事もされないようになった。
けど、これくらいでへこたれて堪るかってんだ。兄さんは押しに弱いって事も、俺は知ってる。
押して押して押して、だめなら引く。
そんなこんなで数週間がたったある日。極闘に召集がかかった。任務のことだ。
集合の部屋に行くと、諜報班の隼斗が、極闘班長である兄さんに、任務の内容を説明していた。
隼斗は頭がいい。特に記憶力と洞察力がずばぬけている。一年生なのに、諜報班での仕事をバリバリにこなしている。
しかもかわいい。男の俺から見ても純粋にそう思う。良いやつだけど、たまにグサッとくる事を言う。しかも正論だから言い返せない。
ただ、この時、兄さんと普通に対話できる隼斗を、羨ましく思った。
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俺にとっての初任務の日。
任務内容を確認した後、兄さんが釘を刺すように言った。
「くれぐれも勝手な行動はせぬように」
戦地は中天伎の、小さな城跡地だった。
敵はさほど強くないけど、数はこっちにくらべてやたらと多かった。
他の先輩たちはどうかなと思ってちらっと見てみたら、さすが。
六条先輩にあたった敵はかわいそうだった。つーか敵、なかば腰引けてたし。
三蜂先輩、いつもと違ってよく動く。鉤爪だけじゃなくて関節技得意だったなんてな。
久遠先輩も、あんな長い鎖で自分よく絡まらないよな・・・。すげえ、視野広いし器用だ。
あとの先輩は見えなかったけど、竜巻起こってたから菱川先輩は絶好調なんだろうと思ったし、奇妙な音とかしたし光とか見えたから、如月先輩及び雪松ちゃんは顕在だと判断した。
・・・あれ、兄さんはどこだ?
その時、俺は屋根の上にいた。
兄さんを探すと、地上の、少し遠くの場所に見つけた。
俺が相手をする敵よりも多い数を相手にして、涼しい顔で片づけていく。
白い刃が、瞬間的に残像として残る。花びらのようだ。噂で聞いた「刀神が刀を抜けば、白木蓮が咲く」とは、この事を言ったのか。
そこは少しだけ建物の間隔が広く、見晴らしのいい場所だった。
俺ならあそこから敵を狙うだろう。中・遠距離型なら間違いなく好む場所だ。
ふと、俺と戦っていた人数が格段に減っていることに気がついた。
その矢先、兄さんのいる場所を囲むようにして、黒い影がヌッと現れた。・・・さっき見かけた奴らだ。
嫌な予感的中。
「兄さん、危ないっ!」
その声に兄さんがサッと顔を上げた。と同時に、八方から敵が武器を投げる。黒いクナイ。よく研いである。
「三神の一人でも討てたら上等だ!」
高揚したような声で敵が叫ぶ。
俺は、考えるより先に行動していた。兄さんを庇うべく、一瞬にしてその場へ下りていた。
「霧島っ!!」
誰かが呼んだ気がした。
俺の思考はそこで途切れた。
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