伍葵と怜<過去話>
伍葵視点〜尊い人〜
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俺には大切な人がいる。他でもない、俺の兄さんだ。
ガキの頃よくドジって叱られたけど、優しく慰めてくれる存在だった。
兄弟だけど、苗字が違う。兄さんは『滝山』で、由緒ある家柄だった。しかし母親は父親を病気で早くに亡くし、再婚した。
再婚相手である俺の父親の名字が『霧島』だった。
純粋な兄弟とはいえないけど、俺と兄さんは仲が良かった。賢くて強くて、厳しいけど優しい。俺はそんな兄さんを尊敬していた。
ある時から、異変が起こり始めた。親父は不倫をし、母さんに辛く当たった。そして滝山本家の支配権を握り、金を賭け事につぎこんでやりたい放題し始めた。
暴力を振るわれ、身も心も弱っていた母さんは、俺たちを残して逝った。
それでも親父の横暴ぶりは変わらず、前々からよく思っていなかったのだろう、兄さんにまで手を上げた。
兄さんは強いのに、拳を避けなかった。黙って、暴力を受けていた。
「ごめん、兄さん。俺が生まれてきたから親父が母さんと結婚して、母さんが死んで、兄さんも・・・!」
「馬鹿な事を言うな、伍葵。悪いのは伍葵じゃない。もし生まれてこなっかたら、私たちは今こうやって兄弟でいることも、話すこともできないだろう?」
「そうだけど」
「いつまで泣いてるんだ。男は強くなきゃいけない。母さんの言いつけを破るつもりか?」
兄さんは、痣の残る顔で微笑んで、俺を諭してくれた。
どんなに辛い状況の中でも、俺には兄さんがいたから悲しくなかった。
兄さんがいれば、それだけでよかった。
ある朝起きたら、兄さんがいなかった。家の中を必死に探し回ると、一通の置手紙があった。
そこには、
『伍葵へ。幸せに暮らしなさい。』
それだけ記してあった。俺は呆然と立ち尽くした。
兄さんがすべてだった。兄さんがいなければ、俺は幸せになんかなれない。生きる希望を失った。
そのすぐ後、親父が不倫相手を家に連れてきた。
「奴もいなくなったし、これで三人で暮らせるな」
親父が満足そうに言う。
「はじめまして、伍葵君?私があなたの新しいお母さんよ」
見知らぬ女が俺に話しかけている。
俺は許せなかった。親父の行動の軽率さと、兄さんを邪魔者呼ばわりしたことが。
俺はとうとうキレて親父に馬乗りになって顔を殴りつけ、
「ふざけんな!母さんがどんな思いで死んでいったか、兄さんがどんな思いで出ていったか・・・親父は全然知らないんだな!
不倫相手連れてきて三人で暮らそうだぁ?よくそんなこと言えるよな!お前なんてもう親父じゃない、地獄に堕ちろ!」
逆上した俺は、そのまま家を後にした。俺は一人になった。
続く→