【笑顔の奥に】
伍葵「雑巾こっちにくれ」
隼斗「はい」
曾良「げ、埃すごいな」
なぜこの3人が部屋の掃除をしているのかというと。
理科の実験で3人一組にならなければならず、伍葵・隼斗・曾良が組んだ。
しかし実験中、運悪く伍葵が器具を壊したので、残りの二人も連帯責任を負わされ、罰として実験室の掃除をしているという経緯だ。
伍「悪いな〜、二人とも。巻き込んじまってさ」
曾「本当にそう思ってんのかよ?」
隼「仕方ないよ。わざと割ったわけじゃないんだから」
曾「ごみ箱の横になんか落ちてるぞ・・・何だ小テストか、っておいこれ霧島のかよ。しかも赤点」
伍「あ゛ー!!見るな見るな!!個人情報だぞ!」
曾「じゃあちゃんと捨てろよな。それにしてもこのテストで赤点とるってお前・・・」
伍「その日は調子悪かったんだって、絶対。なんかそんな気がする」
隼「あれ?伍葵、その日調子良いからってクナイ50本投げしてなかったっけ」
伍「隼斗ぉーーー!そういう事言うのかよ・・・。そんなに俺のこと嫌い?」
隼「何言ってるの、嫌うわけないよ。じゃなきゃこうやって手伝ったりしてないよ」
伍「おお、マイベストフレンド隼斗!」
曾「霧島。吾妻は騙しのプロの諜報班だぞ?お前騙されてるかもな」
そんな他愛のない会話は日常茶飯事である。
伍「脱・赤点したいんだけどなー。すげーよな隼斗も雲居も。俺あんなの解けねーわ」
曾「それでよく学校入れたな」
伍「俺戦いのセンスあるもん」
曾「自慢かよ」
伍「実技にかけてたからな。入学することが第一目標だったし」
曾「入学したらそれで満足してダラけて、ってやつか。最近の大学生かおまえは」
伍「それを言うなら・・・親の仇討つとか言って結局その相手と恋仲になったのはどこの誰だったっけなー?」
曾「!!別に菱川とはそんな・・・」
隼「実技試験の時の伍葵、格好良かったなぁ。一人垢抜けてたもんね」
伍「だろー?」
曾「確かにあの時は目立ってたが・・・筆記で微動だにしなかったお前のこともよく覚えてるぞ」
伍「忘れてくれ・・・。そうだ、試験は治療班とか諜報班もみんな同じ点数の配分なのか?」
隼「ううん、一般志望だと実技:筆記が9:1で、治療班と諜報班志望だとそれが5:5になるんだよ」
伍「へー、そんなに違ったのか!二人とも半分筆記かよ・・・俺だったらムリだな」
隼「僕の場合はちょっと違うかも」
伍「?隼斗おまえ、裏口入学とか言うんじゃないだろうな?」
隼「人聞き悪いこと言わないでよ。・・・でもそれに近いかもね。実は僕だけ3:7の筆記重視なんだ」
曾「何でだ?そんな規定外の配点がどうして許されたんだ・・・?」
いつもと違った空気に変わる。
隼「僕は東天伎のお役人様に拾われたんだ。入学する何ヶ月か前に。そして能力を買われて、戦闘力がほぼ免除される形の特別な配点で入学したんだ」
伍・曾「拾われた・・・?」
隼「東天伎と中天伎の間の門の前で気を失って倒れていたみたいで」
曾「なんか、他人の事を話すような言い方だな?」
隼「聞いた話だから。僕は、生まれてから拾われるまでの記憶が・・・不自然に抜け落ちてるんだ」
伍「え・・・嘘だろ?じゃあ親とか兄弟とかは?」
隼斗が首を横に振る。
隼「普通に考えたらおかしいよね。でも覚えてないんだ。そうなった原因も判らない。
いつかまた僕は、忘れる時が来るのかな・・・?」
自嘲気味に笑いかけたところで、頭突きをされた。
隼「痛っ・・・!!ちょっと、何するの伍葵!?」
伍「今頭強く打って、俺らのこと忘れたか?覚えてるだろ?」
隼「うん・・・?」
伍「だから気にすんな隼斗!!これから青春時代送れば問題ナシ!!」
曾「そうだ。それに覚えてない方がいいことだってたくさんある。・・・過去に執着してても前に進めないしな」
伍「雲居が言うと変に説得力あるよなー」
いつもの和やかな空気に戻る。
「二人とも、ありがとう」
額がまだ少し痛むけど、そんなことはどうでもよかった。
どうして自分のことについて打ち明けたのか、よく判らない。
でもこの二人が受け止めてくれたことが、すごく嬉しかった。
**
夕方、僕は任務のための身支度を部屋でしていた。
すると部屋の外から
「隼斗、入るぞ」
聞きなれた低い声。
「どうぞ」
声の主は判っているから確認は必要ない。
襖を開けて入ってくる。
魁先輩がこの部屋に入ると、部屋が一気に狭く感じる。
その背の高さと、存在感で。
「また仕事か、だいぶこき使われてるな。俺らより働いてるんじゃないか?上に文句の一つでも言ってみたらどうだ」
「僕は文句の言えるような立場ではないので・・・」
「そんなもんか?・・・・・・おい、額腫れてるぞ。どうした?」
「これはちょっと伍葵と、」
「あの野郎・・・」
眉間に皺を寄せる魁先輩は、少し悪人面で。
そんなだから皆に怖がられているのに。
「あ、伍葵は悪くないんです!逆に感謝してるくらいで」
弁解しておかないと、後で伍葵が可哀相なことになる。
「そうか」
「そうです」
少しの沈黙の後。
「仕事、あんまり無茶すんなよ」
くしゃっと頭をなでられる。
魁先輩の側にいると、部屋が一気に暖かく感じる。
本当は外なんかに出たくないけれど、この学校にいるためには仕事をしなければならないから。
「はい。行ってきます」
これからここで、この人たちと刻んでいく記憶の方がきっと大事。
そう思ったある日の午後でした。
***
あとがき。
隼斗を取り巻く環境を書いてみました。会話形式に挑戦。
しかし隼斗は謎が多い。
(09.03.01)